Cocytia・・・。(17)

 さて,いつまでも終わらない。それでも,だいたいトーゲは越えつつあるのである。
 拾い集めた文献をほぼ拾った順番に紹介しているので,わたしのお勉強のリアルタイム実況ではあるのだが,案の定混沌としている。一段落したら,HPの方に整理して書き直さなければならないかもしれない(もちろん,ほっぽらかしてしまう可能性も高い)。場当たりな訳語も統一したい。
 これが実現すると,我がHPに「訪問者を全く期待できないコンテンツ」がまた一つ増える(ニューギニアの蛾に関する,19世紀ヨーロッパの知見に関心を持つ人間が今の日本にいるのだろうか)わけで,検索ランクがどんどんどんと下がっていき,やがて「幻のHP」になるかもしれない。望むところである。
 たまにアクセス解析を見ると,訪問者のほとんどは「虫よもやま」(フツーの虫紹介。人気はエルモンドクガやコナガ)へである。現在のわたしは,そちらのコンテンツを書き足す意向はほぼゼロだったりする。HPは見てもらってナンボなのだけども,ニッチ狙いはわたしの天性に近い。風向きが変わるような時代はきっとこないな。わたしの残り時間も乏しい。


 閑話休題
 Boisduval,「Essai sur une monographie des zygénides」,1829,「Gallica」,のラトレイユによる科学アカデミー報告の続き。


 ラトレイユは,ボワデュヴァルのモノグラフに2つ注文をつける。
 その1。

〔p.XVIII〕
 スカシバガ〔ラトレイユは sesia をスカシバガに限定しており,ホウジャクを含まない〕とマドガを zygénides〔マダラガ〕から分けるにあたって,ボワデュヴァル氏は委員会の一人の意見に従い,彼もまた,両性あるいは雄だけであっても触角が櫛歯状の種をこの族から切り離し得ると考えた。
そして procrides 族〔現,新体系クロマダラ亜科に対応〕が彼によって作られたのである。
しかし,procrides はその弱々しい姿が,〔p.XIX〕触角が単純な zygénides に似ており,

 見るからに同じじゃんというのは,人間はなぜ分類をするのかという根本に関わるように思う。同じに思えるものを無理に分ける必要なんてどこにもない。
 科学的視点だの進化だのは分類的探求に意義や方向を与えたのだろうけど,ゆがめられれば簡単にレイシズムに利用されたりするわけで,どうみたって同じ人間だよねという素朴なまなざしもまた大切だと思う。
 2度目の閑話休題

それらの習性にはいくつもの類似点があるのだから,この分離はあまり必要がなかった。
ドガについては話は別物で,マドガの幼虫はボクトウガやコウモリガのように植物の内部に住み,蛹は特別な姿をしているのだから,新しい族を作るのはもっともである。

 ここまで第1部。ラトレイユ「触角がどうだったって,たいしたことないよ。見るからに同じじゃん」という話。ボワデュヴァルにすれば「だって族が大きくなりすぎて収拾つかないでしょ」という言い分(1/22記事参照)。
 自称思想畑出身の人間としては,こういう対立がとても面白い。ここに「神の創造」やいわゆる「諸存在の鎖」がむき出しになって持ち出されてきると,わたしはご飯3杯はいけてしまうのだが,そういう議論になっていないのは残念である。


 クレームその2。こちらではコーキューティアがやりだまにあがる。

また,触角と唇鬚において,コーキューティアはマダラガと同じくらい,ウーラニアとアガリスタ〔トラガ〕と類似しているように思われる。
私の知る範囲では,オーストラレーシアWikipedia「オーストララシア」参照〕ポリネシアでは,この2属とマダラガ属はまだ発見されていなかった。
しかし,この地域はアガリスタとウーラニア若干の特産地であって,デュルヴィル船長によって,それらの蛾はコーキューティアと一緒に採集されている。
それ以上をわれわれは述べないが,ボワデュヴァル氏には,検証をやり直してこれらの昆虫の本質的な関係を認めていただきたいところである。

 バトラー先生もそうだが,どうもこの手の問題になると表現が回りくどくなっていけない。
 「あたら方面にはマダラガなんていなくて,アガリスタがうじゃうじゃいるってさ。コーキューティアもアガリスタ-ウーラニア系なんじゃねえの」とはっきり言えばいいのに。


 以下は結語。

 ボワデュヴァル氏はこの著作に『モノグラフの試み』という控えめなタイトルを付けてはいるのだが,以上の分析によって明らかなのは,取り上げられた昆虫の習性の観察においても,諸種の記述と異名表においても,〔p.XX〕彼が科学の現状において良き自然学者のなし得るおよそすべてを達成していることである。
これに比肩し得るモノグラフはほとんどないのであって,委員会としては,この著作はアカデミーがその出版を命ずるところの他国の学者向けの論文集に入るに値するという意見を持つものである。


BOSC,〔アカデミー〕委員
LATREILLE,報告者


 これで「学会報告」オワリ。ああ,ツカレタ。orz 
 自分が何をやりたいか,とっくの昔によく分からなくなっているのだけど,次回は『モノグラフ』本文におけるコーキューティアの記載文。