7月19日(1)。ハスオビヒメアツバ。およびシュランキア属勉強会。

アルテン温泉看板

 ええとねえ,こういうのはミジンアツバなんだ。
ハスオビヒメアツバ Schrankia separatalis
 ハスオビヒメアツバ。10mm。
 『標準図鑑』で正式に亜科扱いになったグループ。

 ところで学名が“Schrankia separatalis”である。属名がどう見ても人名由来。調べてみようか。
 学名調べのスタートは「Lepidoptera and other life forms」をガチャガチャと。
 ああ,ヒュブナー(Hübner)の命名だ。こちらの線からは調べきれないな。
 というわけでテキトーに「Schrank」でググる。18世紀の虫屋が網にかかれば成功。
 グーグル様から
Wikipedia, the free encyclopedia:Franz von Paula Schrank
CATHOLIC ENCYCLOPEDIA: Franz Paula von Schrank
の2つが飛び込んできた(ドイツ語の記事は馬鹿なので読めない)。
 というわけで,おそらくフランツ・フォン・パウラ・シュランク Franz von Paula Schrank(1747-1835)だろうと思う。
 要するに,18世紀末から19世紀頭に活躍したドイツの植物・昆虫学者で沢山本を書いた神父である。


 せっかくだからもうちょっと。
 このブログでは散々既出である A.M.Emmet の「The Scientific Names of the British Lepidoptera」にシュランクについての記述がある。
 和訳は日本語で苦しむので要約で。[青字]はyyzz2による補足。

(pp.29〜30)
リンネの分類には,科(family)と属(genus)の階層がまだなく,次世代の学者たちはより体系的な分類法に取り組むことになる
 シュランクの『ボイカの生物相 Fauna Boica』(1801-1803)[イカは現ハンガリーの地名]において。

  • 第1巻 − 蝶を扱う。
    • ファブリキウスは,アゲハチョウ(Papilio)とセセリチョウ(Hesperia)に2分した。[現代,それぞれ上科を形成している。セセリと他の蝶は誰が見ても違うのだろう
    • シュランクは5つに分ける。
      1. Erynnis ……(現ミヤマセセリ属)…現セセリチョウ
      2. Pieris ……(現モンシロチョウ属)…現アゲハチョウ科・現シロチョウ科
      3. Maniola ……(現マキバジャノメ属)…現ジャノメチョウ亜科・現コムラサキ亜科
      4. Papilio ……(リンネ分類におけるチョウ一般)…現イチモンジチョウ亜科・タテハチョウ科・ヒョウモンチョウ亜科
      5. Cupido ……(現ツバメシジミ属)…現シジミチョウ科
    • ファブリキウスはルリシジミセセリチョウを同一科においているが,シュランクは区別している。
    • これらの科の階層は,すでにあった科と同じランクである。
  • 第2巻では。 − 旧科の下位に新しい科を置く。
    • リンネ分類の Bombyx(カイコガ)を7つに区分する。
      1. Saturnia …(ヤママユガ
      2. Bombyx …(カイコガ)
      3. Laria …(ドクガなど)
      4. Arcta …(ヒトリガ)
      5. Lasiocampa …(カレハガ)
      6. Cerura …(シャチホコガ)
      7. Drepana …(カギバガ)
    • 現代の分類用語では,これら7つが「科」で,“Bombyx”は上科に格上げされている。
  • シュランクの命名は現在「属名」に多く使われているが,彼は「属」を発明したわけではなく,今日採用されている分類階層の道の一つを固めたものである。
  • シュランクによる新名の例。
    • Stigmella(モグリチビガ)。Nemapogon(コクガ)。Plutella(コナガ)。Nymphula(ミズメイガ)。Purausta(ノメイガ)。Agrotera(ムラサキノメイガ)。Scopula(ヒメシャク)。Setina(ホソバ)。Hadena(シロオビヨトウ)。Cucullia(セダカモクメ)。Catocala(シタバガ)。Hypena(アツバ)。

馴染みの蛾がいろいろ〜
本業は草屋のはずなのにずいぶん虫に手をだしているなあに一票


(ごめんなさい。虫撮りの続きは(2)で…)