蛾とか聖書とか。
HPに Jodis属について,
Emmetは,「錆」を翅がすぐに色あせることからの連想と見なしている。
http://yyzz2.sakura.ne.jp/name/Geometrinae/Jodis.html
と書いたものの,何だかピンと来なかった。しかもEmmetは上の記述に続いて「マタイ福音書」から引用していて更にこんぐらがった。
なんじら己がために財宝を地に積むな,ここは虫と錆とが損ひ,盗人うがちて盗むなり。
(文語訳,マタイ伝6章19節,強調引用者,漢字は新字体にしている)
( ゚Д゚)ハァ?
田川建三の注解を見てやっと分かった。ここの引用部分の解釈は従来「ヤコブ書」に対応させられていたという。
汝らの財は朽ち,汝らの衣は虫食み,汝らの金銀は錆びたり。
(文語訳,ヤコブ書5章2−3節,強調引用者,漢字は新字体にしている)
なるほど,ここでの「錆」は,鉄や銅が赤錆や緑青でボロボロになる話ではなく,金属が曇って輝きを失う状態をイメージしているようだ。それならアオシャクの翅の緑が褪せる表現に上手く一致する。
Emmetがわざわざ「マタイ」から引用するものだから,聖書を暗記していない異教徒であるyyzz2には全然分からんかったよ。
ところで初めの聖句(「マタイ」)の欽定訳はこう。
Lay not up for yourselves treasures upon earth, where moth and rust doth corrupt, and where thieves break through and steal:
http://www.sacred-texts.com/bib/kjv/mat006.htm#019
(「King James Version: Matthew: Matthew Chapter 6」)(強調引用者)
ああ,蛾だ。でも訳では「虫」だ。
英和辞典を引くと,「the moth=cloth moth」とある。要するにイガの類である。英語圏では,蛾と言えばイガであるようだ。
それじゃあ中世ラテン語聖書のヴルガータではどうなっているのだろう。恥ずかしいことにヴルガータを持っていないのでネットから拾う。買っとかないとダメだろうなあ。一家に一冊ヴルガータ。
nolite thesaurizare vobis thesauros in terra ubi erugo et tinea demolitur ubi fures effodiunt et furantur
http://www.latinvulgate.com/verse.aspx?t=1&b=1&c=6
(「Latin Vulgate Bible with Douay-Rheims」)(強調引用者)
ついでにオリジナルであるギリシア語では? ギリシア語は本当はアウトなのでラテンナイズを間違っているかも。
Mê thêsanrizete hymin thêsanrous epi tês gês, opou sês kai brôsis aphanizei, kai opou kleptai diorussousin kai kleptousin:
http://www.greekbible.com/index.php
(「Greek Bible」)(ラテンナイズおよび強調引用者)
tinea も sês も,学名好きにはおなじみ。
どちらもリンネやファブリキウスの頃から使われてきた名前なのだが,現在では“tinae”はヒロズコガ科(Tineidae)のイガを含む属名Tinae に,“sês”はスカシバガ科(Sesiidae)の sesia属に用いられている。