Asthena属・Baptria属更新。
HPの更新。
- Asthena属
- いわゆる「シロナミシャク」の類。蛾は「茶地味」「縞地味」「灰地味」「白地味」といろいろと地味なのだけども,シロナミシャクは白地味。波線はあるのだけども色が淡い。眼視ではなんだか分からない。白っぽい薄茶色のものが壁に貼り付いているだけである。
- Baptria属
- ヒュブナーの命名。意図はよく分からない。原記載文には翅のことしか記述されていない。近い単語を調べると「潜水者」などと書いてある。要するにキリスト教の「バプテスマ」と同根の言葉である。
- この蛾が「荒野のヨハネ」や「再洗礼派」と関係あるとは考えにくい。せいぜい洗礼式の「神父の服の色」程度のものである。でも洗礼式でなくとも彼らは黒服を着ていそうなものではある。
- ギリシア語の『レキシコン』では,“Baptria”の語が出ていて「of Baptês」とある。それじゃあ“Baptês”とは何かというと,「潜水」および「Cottytoの祭儀の信者」とある。コチュトというのは,古代ギリシアのトラキアの地方神。アテネではディオニュソス信仰に似たスタイルの裏街道の宗教になっており,この祭儀の時に信者が沐浴を行ったことから「バプトリア」とよばれたらしい。「これが洗礼の起源である」というつもりは一つもない。もちろん,わたしが宗教ネタが好きだというだけで,蛾との関連があるのかないのかは不明である。
- 単純に前翅の白帯を水に見立てただけかもしれない。分からない。
- ところで,この蛾はフィンランドゆかりの蛾で(フィンランドでは“Nunnamittari 修道女のシャクガ”とよぶ。黒いからだろうね),フィンランド鱗翅学会のエンブレム(サイトの右上注目)および会報のタイトル『Baptria』に用いられている。「日本蛾類学会会報」が『TINEA』(イガ)だったりするようなものである。蛾屋さんのセンスは共通してこういうものらしい。
生存報告および近況報告。「みちのく会」宣伝。
時が流れる,お城が見える。1月後半から2月の時期はたいてい神経がおかしい。集中して何かすることはほとんどできない。本が読めないのでインプットもできない。職場では給金泥棒でしかない。
虫のことは進めている。少しずつだけ。
1月13日には北大に行って,『TINEA』や『大妻女子大家政学部紀要』の井上寛ナミシャク記載論文のバックナンバーコピーをとってきた。農学部はセキュリティがおおらかで,名前も住所も申告しないまま,書庫で本を探してコピーをとることができた。そしてコピーの半分を機械のところに置き忘れてきた。
キャンパス内はセンター試験の受検生がうろうろしていた。35年前はわたしもその中の一人だった。もうほとんど何も憶えていない。
「みちのく会」出席の葉書を出した。今年は岩手の盛岡である。でも身内が関西でホスピスに入ったりしているのでどうなるか分からない。特殊な蛾屋をやっているので,正しい蛾屋との交流の機会を逃したくないのが本音である。
「みちのく会」の案内はまだ「日本蛾類学会」のトピックスには出ていない。2月25日(土)昼過ぎ〜26日(日)正午くらいまで。岩手盛岡「エスポワールいわて」で。
HP下段のところのメールで参加希望を送ってもらえば,わたしが幹事に取り次ぎます。〆切りは今週。
Macaria 属の周辺とか。
HPにばかりかまけていて,せっかく送ってもらっている画像を紹介できずにいる。ナミシャクに入りたいのだが,エダシャクがまだ終わらないのである。ムーアもモフェットもとりあえず飛んでいる。
以下エダシャク。画像追加分(細かな記述手直し・訂正は他にもちょこちょこ)。
- Glacies属
- Hypoxystis属
- Heterolocha属
- Luxiaria属
- 下3属は原記載または図版を発見できず。だいたいが20世紀ものは原記載がオープンになっていないことが多いし,図版もない。基本的に Seitz 以降は頑張りようがないのが普通。
- Macaria属
- 重要なグループらしく,「Butterflies and Moths of the World」で検索(このサイトはとにかく便利)をかけると,Macaria 由来の属名は
今日はリストばっかりだがそういう日もあるのである。
『TINAE』の,シャチホコガ科の亜科分類の最新情報が来たよ。
というわけで蛾類学会から『TINEA』の最新刊が届いた。冬の「みちのく会」で予告があった,シャチホコガ科の分子系統分析のまとめである。
Hideki Kobayasi and Masaru Nonaka, 2016, TINEA 23, Supplement 1 。
シャチホコガ科の324種の脚をもいでDNA分析したという。大変な世界である。わたしだったら,どれがどれの脚だか絶対に混ざってしまう。
『標準図鑑』では次のような亜科分類がなされている。(List-MJ 日本産蛾類総目録 [version 2]から作成)
4亜科である。(わたしが)日本のシャチホコを整理する分にはちょうどいいぐらいの感じ。
もう論文が発表されたのだから,引用しても大丈夫かな。
前掲『TINAE』論文では,シャチホコガは4亜科から,次のように(アフリカを除く)12亜科へ再編される。(p. 40)
ハネブサシャチホコ亜科 Platychasmatinae
トガリバシャチホコ亜科 (新称) Scranciinae
ツマアカシャチホコ亜科 Pygaerinae
フサオシャチホコ亜科 Dudusinae
ギョウレツシャチホコ亜科 (新称) Thaumetopoeinae
オオキシャチホコ亜科 (新称) Perigosinae
ホソバシャチホコ亜科 (新称) Heterocampinae (Drymonia が Notodontinae に移ったため,Fentonia を新名称とした)
ギンモンシャチホコ亜科 (新称) Spataliinae (ギンモンシャチホコ族 Spataliini,キシャチホコ族 Ceirini)
ツマキシャチホコ亜科 Phalerinae
ウチキシャチホコ亜科 Notodontinae (ネグロシャチホコ族 (新称) Neodrymoniaini,シャチホコガ族 Stauropini,モクメシャチホコ族 Dicranurini,ウチキシャチホコ族 Notodontini)
マダラシャチホコ亜科 (新称) Dioptinae (新大陸に分布,昼飛性の美しい蛾を含む)
ナガバシャチホコ亜科 (新称) Nystaleinae (南米に分布,北米にも少数)
(詳しく読みたい人はバックナンバーを買ってね。それと日本蛾類学会にも入ってね)
このうち,ハネブサ・トガリバ・ギョウレツ・ウチキのネグロ・マダラ・ナガバは北海道未産である。北海道はシャチホコ相が豊かとは言えないのはやっぱりそうなのである。
この新分類が今度どのように普及するか分からないが,とりあえず(シャチホコが薄いこともあって),わたしのHPの71種はこのまま亜種区分なし(『大図鑑』分類)で行きます。ごめんなさい。
vittaria をめぐる迷走。
twitterにあげた内容のまとめ直し。相変わらず学名のHPいじりである。もうほとんど実体としての蛾からは遠ざかって,記号と文献の世界に浸かりきっている。
インド産の蝶の研究者Mooreについて,おそらく標本ばかりで,自分が扱っている蝶の生態なんて見たことがないだろうと以前書いたことがあるが,人を呪わばナントカカントカを地で行く結果になっている。どうやらこれは真理らしい。
というわけで,
【和名】 コウノエダシャク
http://yyzz2.sakura.ne.jp/name/Ennominae/Elophos.html
【学名】 Elophos vittaria
(えろふぉーす うぃとたーりあ)
【命名】 (Thunberg, 1788)
である。
ツーンベリというのはリンネの直弟子で,南アフリカやインドを回って日本でも1年過ごしてヘビトンボの記載をして,鎖国下で思うように活動できないのでインドネシアに行って,最後は母校のウプサラ大に戻って教授をやった人物である。ポスト・リンネアンというよりも,分類学史的には「リンネの同時代人」と位置づけるのがふさわしい。本職は植物屋である。
というわけで,古い。古いのなら,ヒュブナーの美麗な図版があるかもしれない。いきなり,「Hübner's Geometra」で「vittaria」を探す。この時代は属名が確立していないので種小名だけで十分である。すぐに見つかる。
何か違う。こんなコウノエダシャクはおかしい。あれれと思って,「Lepindex」を引くと
Scientific Name of Taxon : vittaria
Current Status : Junior subjective synonym
Original Combination ! ! Hübner, 1808/14Current Valid Name : CHRYSOCTENIS ramosaria de Villers, 1789
http://www.nhm.ac.uk/our-science/data/lepindex/search/detail.dsml?TaxonNo=212752.0&UserID=&UserName=&&listPageURL=list%2edsml%3fsort%3dSCIENTIFIC%255fNAME%255fon%255fcard%26SCIENTIFIC%5fNAME%5fon%5fcardqtype%3dstarts%2bwith%26SCIENTIFIC%5fNAME%5fon%5fcard%3dvittaria%26recLimit%3d30&searchPageURL=index%2edsml%3fSCIENTIFIC%5fNAME%5fon%5fcardqtype%3dstarts%2bwith%26sort%3dSCIENTIFIC%255fNAME%255fon%255fcard%26SCIENTIFIC%5fNAME%5fon%5fcard%3dvittaria%26recLimit%3d30
はずれ。ヒュブナーが命名した別の蛾である。「Chrysoctenis ramosaria」はヒメシャク亜科。この属は,現在は Cleta属に編入されている。Cleta ramosaria を画像検索すると,なるほどヒュブナーの通りである。
仕切り直し。『大図鑑』のシノニムリストへ。
コウノエダシャクは,Yezognophos sordaria で記載されている。名称が全然違うのだけど,学名のお引っ越しは珍しいことではないので平気である。
さて記載文にたどり着く。Thunberg, 1792, D.D. Dissertatio entomologia sistens insecta svecica,ウプサラ発行である。
(p. 60, 第3巻にあたる)
http://www.biodiversitylibrary.org/item/43769#page/84/mode/1up
翅は白地に埃状の散布。眼紋と帯があって,端に黒点。
ここまでをTwitterにあげてから気づいた。「記載年が違う」。まずい。vittaria の記載年は1788年で,上記の1792年ではない。ツーンベリが自分で誤同定をして,自分でシノニムを作っているに違いない。『大図鑑』はそこら辺をフォロー仕切れていないのだろうという見当。
普通はここで袋小路なのだが,幸運だった。前掲書の2ページ前(p. 58)に「Phalaena vittaria」が載っていて,1792年の本当の原記載が記されていた。これは偶然である。『大図鑑』にも「Lepindx」にもこの原記載は出ていない。
というわけでやり直し。Thunberg, 1788, Museum naturalium Academiae upsaliensis cujus partem primam 6: 74, pl. c.へ。
種名ばかりが淡々と列記されているのだが,問題の vittaria には註がついている。
Phalaena vittaria 6)
- -
6)埃をかぶったような翅。2つの黒い帯が波打ちながら末広がりになっている。
http://www.biodiversitylibrary.org/item/180822#page/88/mode/1up
これがHP用決定版。画像は(見つかれば)原記載に添えられたものを使うようにしている。何というか,とても地味である。蛾のプロトイメージはこんなもののような気がする。
こんなことに時間とエネルギーを取られているのだから,そりゃあ生きた蛾の撮影活動なんぞは,とうていわたしには無理なのである。
その他。現在,グーグルランク・クロール乞食の状態。
エダシャク亜科の修正中。属名と種小名との性の一致について,Biston属確認。
HPの学名ごっこ。次はナミシャクで,リストはもう完成している。現在の北海道のナミシャクは76属214種が決定版だと思う。その前にエダシャクの修正を終わらせないと,ということで連休に作業中。
- Alcis属の画像追加。
- 蛾4種の抜け画像をすべて Seitz で補完。プライヤーについての小西正泰氏のサイトが消滅しているので,こちらも削除。
- Amblychia属の画像追加。
- バトラーの原記載からの画像。属名の由来は未だよく分からない。
- Angerona属
- Hübner による画像を貼っておく。ヒュブナー(Jacob Hübner)はリンネとちょうど入れ違いの世代の画家兼鱗翅学者。121は Crocota tinctaria(日本未産種)。122,123がスモモエダシャクである。
- Apochima属
- クワトゲエダシャクの画像入れ。クワトゲエダシャクは北海道にいるかどうか疑問が大きく,『北海道の蝶と蛾』からははずされている。
- Apocleora属
- 命名者バトラーの画像見つからず。ザイツで代用。
- Aporhoptrina属
- 原記載文を読み返す。HPにあるように,前の方の線が半円であるらしく読み取れるので採用。自信があまりない。
- Arbognophos属
- スタウディンガーの“Dt. ent. Z.”は図版がモノクロでつまらないのだが,原記載ということで。
- Arichanna属
- ヒョウモンエダシャクの画像がついに見つからない。近年になってから亜種から昇格した種なものだからどうしようもない。
- Ascotis属
- 亜種の人名を検索。「飯島一雄」? 日本語の雑誌をほとんど所持していないのでこういうのが最も苦手。「蝶と蛾」以外はCiNiiにほとんどないのである。
- Auaxa属
- 画像入れ。属名・種小名の原記載読み直し。属名の方はやっぱり分からない。
- Biston属
- ザイツから画像入れ。このころやっと気づいたのだが,あちこちで蛾の種小名が女性形に変更されている。命名規約では属名の接尾辞が男性扱いされるとになっているものまで女性扱いされている。要するに,そういう判断がどこかであったということなのだろう。
- 普通に考えれば Biston はギリシアの男性名である。さて,1815年にビストン属を立てた当の Leach がどう考えていたかというと,自分で命名したビストンの新種には女性形語尾をあてがっているから,リーチ自身は“Biston”のジェンダーを女性だと見なしているらしい。
- 一方,リーチは,1897, On Lepidoptera Heterocera from China, Japan and Corea. Annals and Magazine of Natural History (6) 19: 297-349, 414-463 では,バトラーが1879年に命名した“Biston robstrum”(これって中性語尾である!)をそのままの性で採用している(p.322)。すでに付けられている種小名の語尾をかえるべきではないと考えたのかもしれない。まだ国際基準ができていない時期である。
- Bizia属
- やっぱりウォーカーの命名は分からない。
- Bupalus属
- スタウディンガーのモノクロ画像入れ。
一度に更新してしまうのはもったいないので,休日のうちに少し書きためておくことにする。めざせ小まめな更新でSEO。
フユシャク亜科 Inurois の解釈私案。
シャクガも残るはフユシャク・ナミシャク・ヒメシャクである。まずフユシャクから始めようと思っている。フユシャク亜科は日本には2属しかいない。Alsophila と Inurois。後者の方が種数が多い。とりあえず調べ始めて,Inurois でつまずいた。
最も頼りにしている Jeager本や Emmet本には出てきていない。困ったなあというところ。
それで日頃はあまり参照していない,平嶋義宏(2007),『生物学学名辞典』を見ると,Inurois は3箇所で取り上げられていて,
(p. 364)… Inurois fumosa ウスモンフユシャク
(…)属名:(ラ)inuro 焼印をおす;害悪をひきおこす + -is. または,(ラ)in- 否定 + (ギ)oura 尾 + -is . (…)
(p. 524)… Inurois tenus ホソウスバエダシャク
(…)属名:(ラ)in- に向かって,または,否定 + (ギ)oura 尾 + -is. 蛾の尾端の状態から.(…)
(p. 661)… Inurois membranaria クロテンフユシャク
(…)属名:(ギ)in- 否定 + (ギ)oura 尾 + -is. (…)
互いにソゴがあったり,「または」が錯綜していたりして,結局よく分からない。
また,「蛾の尾端の…」というのは♀個体のコーリング用の尾毛を指すのだろうが,ところが原記載(Butler, 1879, Ann. Mag. Nat. Hist. (5) 4 : 445)には,Cheimotobi brumata(現在は,エダシャク亜科の Operophtera brumata)との「翅脈の相違(多くの翅脈で異なる枝分かれをしていたり,なくなったりしている。つまりは全然違うということ)」についてのみ(その他の点ではほとんど同じと)述べられており,♀個体についてはノーコメントである。♀標本も所持している記載があるから,要するに関心をひかなかったということだろう。そこを根拠に命名するものだろうか。そもそも Inurois の♀の尾にも(ネット上の諸画像を見る限り)毛の房は存在している。
というわけで,平嶋解釈を採らない。代案を出す。とはいえ決定版1つには決まらない。難しい。
まず“in-”はラテン語の否定の接頭辞で決まり。ギリシア語なら普通は“a-”で否定しそうなものである。“innnu...”でnが重複するので1字省略されている。
後節が勝負になるが,いずれにしても接尾辞“-is”の据わりが良くないので,この学名はかなり恣意的な造語であるといえる。この具合の悪さは平嶋説でも同じ。
- ラテン語の“nurus”(義理の娘)を否定したもの。「義理の娘ではないもの」。義理の娘ならともかく,「ではない」のなら原記載の Cheimotobi brumata とはどうも上手く繋がらないように思われる。
- バトラーが翅脈にこだわっていることから,ギリシア語の“neuron”(神経,脈)を否定したもの。「脈のないもの」。バトラーは英語圏の人間であるから,発音から“e”を略してしまう可能性がある。
わたしの立場では,とにかく「原記載文」を最大のヒントにして学名を読み解いていきたいと思っている。2番目が押し。
フユシャクは日本には2属しか分布していないのだけど,調べ出すと面倒である。多くの蛾屋さんは寒いフィールドで一生懸命♀探ししたりしているのだろうけど,ネットサーフィンや文献読みもそれなりには大変なのである。こちらが傍流なだけで。
他のシャクガ亜科拾い。
- フトシャク亜科
- 未分布なので,タイプ属のOenochroma属の紹介のみ。
- ホソシャク亜科
- 同じく未分布。タイプ属のOzola属の紹介のみ。
- ホシシャクの Naxa属。
- カバシャクの Archiearis属。
- Emmet よりも自分の解釈を信じるのは,Inurois と同じである。